星野道夫の旅するカメラ
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  NIKON D100

星野道夫の『ALASKA 風のような物語』の中に『カメラを盗んだオオカミ』という短いエッセイがある。
マッキンレー山を真正面に望む丘で撮影をしていた星野の目前に、ある日一頭のオオカミが現れる。オオカミは星野の一瞬のスキをついてストラップを口にくわえてカメラを持ち去ろうとする。垂れ下がったカメラを地面にゴツゴツぶつけながら、全力で逃げるわけでもなくただトコトコと去ってゆく。驚いた星野が追いかけるとオオカミも走り出す。いいかげん追いかけて疲れた頃、やっと雪の上に落とされたカメラを見つけて星野は安堵する。
この時の経験を星野は次ぎの言葉でしめくくっている。

『いつか自分が年老いた時、このカメラを手にしながら、子どもたちにこんな話ができるかもしれない。
「昔々アラスカでね、ある夜、不思議なことが起きたんだ…。オオカミの話なんだがね…」』

残念なことに、星野は年老いる前に取材先のカムチャッカ半島でヒグマに襲われて44才の生涯を閉じたため、この希望は実現しなかった。

このときオオカミがくわえて立ち去ろうとしたカメラはNIKON F3だった。
このF3は今、北海道を中心に活躍している自然写真家O氏の手元にある。プロ写真家になりたいと考えていたO氏は人づてに紹介してもらった星野に相談を持ちかけた。その時に星野からプレゼントされたのが、「オオカミが盗んだ」カメラだった。
「人生は思ったより短い。今できることに挑戦した方がいいよ」
星野のこの言葉を聞いて、O氏は写真家になることを決心したという。

カメラは旅をする。
日本からアラスカへ、人から人へ、時には人からオオカミへ…
by ondtp | 2005-10-13 23:55 | カメラ的日乗
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