カテゴリ:酔鯨的ブックレビュー( 6 )
タダより高いものはない、と昔の賢者は言った。
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いまやインターネットのインフラとなった感さえあるグーグルの検索エンジン。
梅田望夫の「ウェブ進化論」は「向こう側」の覇者となったグーグルの光の部分に焦点を当てて、わたしのような不案内な者にさえ、なにやら「向こう側」には新たな希望の世界が広がっているような明るい気持ちを持たせた。その明るさがこの本をベストセラーにしたのかもしれない。
一方、佐々木俊尚の「グーグル Google---既存のビジネスを破壊する」は、むしろグーグルの影の部分にライトを当てている。
グーグルという会社はタダで私たちにサービスを提供している。検索エンジンは言うに及ばず、グーグルニュース、Gメール、グーグルマップ…みんなタダである。しかし、タダより高いものはないとも言う。果たして、グーグルの世界戦略の成功は私たちを幸せにするのか。中国やアメリカ政府に見せたグーグルの政治的不見識と軟弱さは、たかが一私企業のサービスがインターネットのインフラにまでなっていいものかとの不安を抱かせる。世界の全てをデータベース化しようとするグーグルの遠大な野望は、行き過ぎた監視社会を作り出すことにならないか。グーグルが「ビッグブラザー」となる危険性はないのか。グーグルの覇権は将来の私たちの生活をどのように変え、影響を及ぼそうとするのか。
グーグルの「光と影」を考えさせるこの二冊はとても勉強になりました。
by ONDTP | 2006-05-28 22:22 | 酔鯨的ブックレビュー
「風の旅人」に思う

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「風の旅人」に思う
カメラマンは写真をとるためにはどんなに困難であっても撮影現場まで出かけないと始まらない。苦労してせっかく現場の目撃者になるのだから、写真に添える文章もカメラマン自身が書いたらきっと臨場感のある魅力的な文章になるのではないかと思う。しかし残念なことに、(カメラマンには文章家が多いのだが)写真雑誌では写真と文章は別の人物であるのが主流だ。星野道夫のように写真と文章の両方を一人のカメラマンが担当しているケースは少ない。文章を書くのが苦手な人もいるだろうが、例え上手く書けなくても現場を体験した者だけが感じた何かが伝わるのではないか。

「風の旅人」を見て(読んで)ると、写真の質の高さは感じても、文章の方は難解であったり、高尚すぎて腰が引ける場合が多い。高尚な思想や哲学もけっこうだ。しかし危険な場所や、撮影が困難な場所まで出かけ、そこに吹く風を肌に感じ、臭いを嗅ぎながらシャッターを押した写真家自身の生の言葉ももっと聞きたいと思う。それは写真に感銘を受けた読者として自然な感情だろう。
平たく言えば、高尚な観念ではなくて直接的な経験を訊きたいのだ

(「風の旅人」には今後ともがんばってほしいと思います。時々買ったり、時々立ち読みしています(^-^;)

「風の旅人」(隔月刊) ユーラシア旅行社
by ONDTP | 2006-01-13 12:52 | 酔鯨的ブックレビュー
『日曜日の陽だまり』 ハービー・山口
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どういう風の吹き回しか、時には殊勝な気持ちになって写真関連の理論書を買って読んだりしている。しかし、たいてい1/3も読まないうちに投げ出してしまう。
なぜかというと、自分の無知を棚に上げて言わせてもらうなら、写真の話かと思って読み始めても…
まるで世界史のように間口を広げた話の大仰さ、哲学書のように難解な概念をちりばめたつめらしい語り口、いったんカメラを手にしたら、悩める芸術写真家となるか、世界や社会の不正を告発するフォトジャーナリストになるのでなければ無価値であるかのような、偏狭と独善性に満ちた押しつけがましさ、鼻につく左翼イデオロギー臭 .etc. etc…そんな写真本が多い。
とてもじゃないがついていけない。写真を語るのになんでこんなに小難しい話になるのか。

もっと普通に写真の話がでけんかーっ!


結局、著者が何を言っているのか理解できず(ま、1/3も読んでないからね)、ののしりながら投げ出すはめになる。そういうことが何度か続いて、もう写真本はけっこうこけこっこう、もう二度と買わないと決心する。しかし時間がたつと、根が真面目なものだから(あるいは記憶力が悪くすぐ忘れてしまうので)また性懲りもなく買ってしまう。

そんな中でたまたま出会った本が『日曜日の陽だまり』(ハービー・山口著)だった。
著者のハービー・山口については写真集を見たことも無くほとんど知識がなかった。Leicaを特集したムック本の記事を少し読んだことがあるぐらいで、有名なカメラマンであることも知らなかった。
また例の調子の、難解偏狭独善イデオロギー的しかつめ文章か…と警戒しながらページをめくってみると…
そこには、高校生になる前にすでにプロカメラマンになることを決心していたハービー・山口少年とカメラとの幸福な出会いが率直な文章で綴られていた。
初めてカメラを手にしたときからハービー・山口青年のテーマは決まっていた。それは「人の心の温もり」を撮ることだった。人の心が清くやさしくなる写真を撮りたいと願っていた。
そして後年、プロカメラマンになった彼の写真は、彼の初心どおり、その「心の温もり」で他人の人生を変えるほどの力を持つことになる。ハービー・山口氏とカメラとの幸福な出会いと、その後の写真とのつきあいを巡る物語は、時に切なく時に熱く時に涙を誘い、そしてなにより面白かった。

この本はハービー・山口の自伝であり、青春の書である。
カメラ自体の話は少ないけど、やっと普通に読める文章と内容を備えた写真本に出会えてうれしい。
by ondtp | 2005-11-10 13:45 | 酔鯨的ブックレビュー
寡黙な写真が語りかけてくるもの 『ぺるそな』 鬼海弘雄
これからMapcameraへGR-Digitalを受け取りに行ってきます。
革ストラップももらえるそうでよかったです。でもよく考えると、わたしはストラップは付けないと思います。Optio でそうしているように、ケータイ用のごく小さなハンドストラップにするか、あるいは何もつけないまま使う可能性も大です。
ま、それは実物を手にしてからのことです。ふふふ。
あ、これから東京方面に出かける方は傘を持って出た方がいいですよ。今は晴れていますが、わたしがカメラを買うと必ずといっていいほど雨になりますから。
これはわたしに対する神様のこらしめだと思います。とばっちりをくわないように注意してください。
11:45am


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   人間は顔だ。
   人間は服装だ。
   人間は外見だ。
   『ぺるそな』のページをめくっているとそんな風に強く感じます。
   いや、今ではもっとぴったりの言葉がありました。
   人間はキャラだ。※
※キャラ
「キャラクター」の略。
また、そのそれぞれの固有の性格・性質の事を言う場合に、
「キャラクター」ではなくこの語を用いる事が多い。(はてなダイヤリーより)


鬼海弘雄の写真集『ぺるそな』は、彼が30年以上かけてハッセルブラッドで撮り続けてきた、浅草の市井の人たちのポートレート集です。市井(しせい)という言葉は、どこにでもいる普通の庶民を意味します。たしかにこの写真集に登場する人たちは市井の人たちですが、普通の人と言えるかどうかは疑問です。キャラがたちすぎた人たちばかりだからです※。
※キャラがたつ
個性や性格・性質が際だっているさま(酔鯨解説)


鬼海は自宅から1時間半かけて浅草寺に撮影に出かけます。3時間ほど境内をうろついたりたたずんだりして、一日で撮る写真は一人か二人です。彼の写真はいわゆるキャンデッドフォトではなく、声をかけてカメラの前に立ってもらう方法をとっています。写真を撮らせてくれるように頼む人数も多くありません。ほとんどの時間をカメラのシャッターを押すこともないまま、往来の人を眺めることで過ごします。

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30年も通い続けているため、この写真集には同じ人の現在の写真と、例えば7年前や15年前の古い写真が並べられていたりします。
例えばこんな具合です。

「自分で作ったという曲を吹く男 1986」
「自分の歌を披露するひと(7年後)1993」

「物静かな労務者 1985」
「何年ぶりかで会った物静かな労務者(15年後)2000」

どの写真にもこの程度の短いキャプションしか添えられていないので、見る者は2枚の写真を比較して、モデルになった人物の上を過ぎ去っていった時間を、想像力を動員して読み取るしかありません。幸いハッセルブラッドで撮影された写真は皺の1本まで克明に描写していますから細部に至るまで鮮明です。

現代はマルチメディアが主流で、静止画であるカメラは時代遅れとも言えます。
しかし、鬼海の『ぺるそな』は写真の持つ力を示しています。
圧倒的情報量で至れり尽くせり伝えるマルチメディアと比べると、確かに写真は情報量が極端に少ない。写真はしゃべれないし、動かない。
しかし、そのことが返って見る人に思考を要求し、情報不足を想像力でおぎなわせるようにと働きかけてきます。親切すぎるマルチメディア(例えばテレビ)が視聴者を思考停止へと向かわせる傾向があるのと対照的です。
これは、フルオートになったカメラが、カメラマンから光を読み取る能力を奪い、ピントへの自覚を希薄にしたのと似ています。便利すぎるものはわれわれを怠惰にします。考えない頭は脳細胞を減少させ、使わない筋肉は細くなります。
多くを語らない寡黙な写真だからこそ、見る者の思考や想像力を強く刺激してくるのです。鬼海弘雄のこの写真集はそうした刺激に満ちています。


鬼海弘雄写真集「ぺるそな」普及版 草思社刊
by ondtp | 2005-10-21 02:31 | 酔鯨的ブックレビュー
6月27日(月) プライドは金では買えない

◆酔鯨的ブックレビュー

『コーチ』
マイケル・ルイス   ランダムハウス講談社
Caoch:Lessons on the Game of Life


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文明の光がいまだ届かない土佐の田舎にわたしは生まれた。草深い田舎町には原始人しかいなかった。彼らはせいぜい30語ほどの単語を、棒きれを放り投げるようにしてしゃべった。ものをいうのは腕力で、意味のある言葉を口にする人間は皆無だった。少しでもまとまった話をする人間は理屈屋として敬遠された。そんな環境で育ったので、わたしも長い間原始人のままだった。

少年期に必要な教育者は感化力のあるアニキである。
意味のある言葉は読書でも涵養できる。本当に少年にとって重要なのは、あんな人になりたい、あの人のように振る舞いたい、あの人のように考えしゃべりたい、あの人のような大人になりたい、そう思わせるアニキ的存在である。
わたしは人生において後悔しないタイプの人間だが、ただ、こうしたアニキに少年期に出会えなかったことだけは残念に思う。本当は出会っていながらわたしの目が節穴だっただけかもしれないが、いずれにしても強い感化力を持つアニキとの出会いがなかった。もし出会っていたらもっとましな人間になれていたと思う。

この本は、今はベストセラー作家になった著者が中学時代の熱血教育者の思い出を綴ったノンフィクションである。
身長193cm、体重100kgの名物コーチ・フィッツはバスケット・ボールとベースボールのコーチで、鬼のように恐れられる存在だった。しかし、時代が変わり、彼の熱血コーチぶりが世論の逆風と父兄の反発にあうようになり、彼は学校を追われようとしていた。そんな噂を耳にした著者は数十年ぶりにニューオリンズの母校を訪ねてかっての恩師の苦悩を知る。そして世間の風潮への反論として、また、恩師への感謝と尊敬の念を伝えるためこの本を著した。

「今時の子供は、生まれたときからプライドを尊重されている。だんだんにプライドを培っていくわけじゃない。だから叱られたりすると、とんでもない侮辱を受けたと憤慨する」

コーチ・フィッツとにって、プライドとは与えられるものではなく、経験を積み重ねる中で自らが獲得してゆく性質のものなのだ。金で買うことはできない。今の子供は親に大事にされるあまりそうした経験を積む機会を奪われている。

「なにしろ、おれが何かやろうとするたびに、親が口出ししてくるんだ」

わたしは自信のない子供だった。もっと自信が欲しかった。気分が乗ったとき、調子のいいときだけの一時的な自信ではなく、恒常的な揺るぎない自信を身につけたかった。
この本は本物の自信がどこからやってくるかを教えてくれる。

コーチ・フィッツは決して体罰をふるわなかった。
選手への鉄拳制裁で有名などこかのプロ野球監督が熱血指導者として賞賛される日本の「教育」風土とは一線を画す指導論である。わずか100ページほどの本なので一読をおすすめする。
by ondtp | 2005-06-27 10:48 | 酔鯨的ブックレビュー
5月5日(木) ワープロが奪った漢字を奪還せよ


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Panasonic LC1 横須賀 OR 横浜

PhotoshopCS2がリリースされたので、英語版のトライアウトを使ってみました。CS2の目玉のひとつが新ファイルブラウザ(Adobe Bridge)です。Photoshopとは別に、単独で起動できるようになり、わずかばかり起動が速くなりました。確かに便利になった点もありますが、市販の画像ブラウザ(ACDSeeとか、DPEx)などを使っている人間からすると、どうということはありません。

このブラウザを使うメリットは、「Bridge」という名の示すとおり、各種Adobe製品間の連携をこのブラウザ上で横断的に行えることで、これはPhotoshopでデジカメの画像補正をしている人にはまったく関係のない機能です。バージョンアップであっても安くないソフトですから用途がデジカメの補正なら買うまでもないと思います。(情報によると、新しくデジカメ用の機能も追加されたらしいのですが、どこにあるのか見つけられませんでした。ご存じの方はお知らせいただくと助かります。)
今回、CameraRaw3.0になってトーンカーブ機能が加わりました。これは朗報ですが、もっと早い段階からあってしかるべき当然の機能でした。日本版は6月発売予定のようです。デジカメもアプリケーションソフトも更新が早すぎてついていけません。


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●新連載 酔鯨的ブックレビュー

『世界最速「超」記憶法』 
津川博義 講談社+α新書


「バラ」という文字を漢字で書けますか?
わたし書けます。
というか、この本のおかげで最近書けるようになりました。
記憶法というと、個人的にはうさんくさいイメージを持っていますが、この本はすごいです。この本は、最初のページでいきなり「バラ」の漢字を憶えるコツで始まります。そして、次のページですぐ「書いてみてください、必ず書けます」と続きます。「無理だよ」と疑いながら書いてみたら、
これがなんと書けてしまったのです!
自分でもビックリ! これは本物だと感じました。憶えたのは1週間ばかり前のことですが、いまも忘れずに書けます! 

バラの他にも、例えば「ゆううつ」「ちみもうりょう」も憶えました。
苦手だった英単語のスペルも書けるようになりました。
水曜日(ウエンズデイ)を書けますか?

ワープロを使うようになってから漢字を忘れる一方だったので、これではイカンと危機感を抱いて買った本でした。ワープロが書ける漢字を憶える必要はないと考える人もいますが、書けたほうがいいと思いませんか。わたしの場合は老化防止のトレーニングも兼ねてます(笑)

どれだけ書けるかテストしてみませんか。

ばら

ゆううつ

ちみもうりょう

ウエンズデイ(水曜日)


答えはここ
by ondtp | 2005-05-05 10:50 | 酔鯨的ブックレビュー