ヤフオクでそれとなくウオッチしていたカメラがあったのですが、終了まであと30分というところで、突然現れた新参者が希望落札価格でかっさらって行きました。
それまで500円単位で10人以上の人間が競り合っていたのに、この御仁は終盤になっていきなりそれまでの価格より1万5000円以上もの高値を付けて落札してしまいました。わたしは競りに参加していませんでしたが、ぎりぎりまで競り合っていた人たちの気持ちを思うと同情の念を禁じ得ません。 何事につけても、金で強引に問題を解決するのは感心できませんな。 年末スケジュールのせいか、毎月20日発売の写真雑誌がすでに本屋に並んでいた。あれこれ一通り立ち読みした後、PHAT PHOTOの1-2月号だけをレジに持って行って買った。 特集記事にはあまり興味が湧かず、パラパラとめくっていたら、見開きいっぱいの大きなスナップ写真が目にとまった。その写真は、あきらかにアンダーでぶれているし、どうということのない見慣れた街中のスナップだったが、見た瞬間「これだ!」と感じるものがあった。 「これだ、これだ!」 これまで、頭の中でぼんやりとイメージしていながらも形に出来なかったスナップ写真の具体例がそこにあった。 このところ銀座の人物スナップや、建築や店舗のファサードの写真を撮るモチベーションが低下していた。同じことを繰り返していると感じていた。もっと違った写し方ができるはずで、頭の中にぼんやりとしたイメージが浮かびつつあった。 これまでわたしが撮ってきたスナップは、人物を狙ったら人物が前面に出て、街の風景は後退して単なる背景となった。逆に風景を撮ると、こんどは建物が前面に出て、人物は点景として後退した。どうしても人物と風景が分裂してしまい別々のものになってしまいがちだった。 しかし、PHAT FHOTOのこの写真は違っていた。 人物は必要以上に主張することなく街の中にとけ込んでいて、街は背景というには存在感があり人間と対峙しているかのようだ。人間と街の両方が互角の存在感を張り合って一枚の写真になっているように思えた。 構図も一見散漫に見えるが、これもわたしがイメージしていたものと同じだった。写真は絵画と違い、構図の完成度が高くなるほど逆に不自然でつまらなくなると感じていた。写真の構図は「決まらない」方がいい。もちろんいい加減な構図でいいわけではなく、散漫なように見えても、見る人の視線を間違いなく誘い込む導線をもった構図でなければならない。この写真にはそれもあった。街と人間が散漫に混ざりあっていながら、なおかつしっかりと力強い中心を備えた写真だった。 すばらしいセンスを持った若いカメラマンが登場してきたなと思った。急いでテキストに目を移すと、カメラマンの名前は牛腸茂雄とあった。 ウ シ チ ョ ウ シ ゲ オ ? 読み進めていくと、牛腸はゴチョウで、すでに20年以上も昔に亡くなっているカメラマンであることがわかった。写真の撮られた日も1981年1月と記されていた。 若い新進のカメラマンではなかった。少しがっかりしたが、20年以上も前にこんな独特なスナップを撮っていたカメラマンがいたことに驚いた。 牛腸茂雄の名前と『見慣れた街の中で』はわたしの中に深く刻まれることになった。 さて、牛腸をお手本にして、彼のようなスナップを果たして撮れるだろうか? スタイルを持ったカメラマンの作品だったら、それなりに真似ができそうだが、牛腸のスナップにわかりやすいスタイルは無い。あるようで無い。 おいそれとは真似のできるスナップではなさそうだ。 参っちゃったね。
by ondtp
| 2005-12-18 23:16
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